明治以降、世の中の仕組みが一変した点には触れましたが、「新銃(国産)」ましてや「輸入銃」などは、おいそれと買えるものではなかったかと思います。先ほどまでご説明したように、明治の中頃はともかく、本当のところはどうだったのでしょうか?
この件についても、なかなか資料不足で、これという結論には至りませんでした。ただ、いくつかの材料をもとに「推論」を述べてみたいと思います。
明治時代に入り、広く狩猟が行われたようですが、その全てが新たに買った「新銃」という事はありえないと思います。火縄銃のゆくえについて、直接の答えにはなっていないのですが、今回いろいろ探した資料に、千葉徳爾先生(民俗学者、故人、柳田国男門下)の著書【狩猟伝承】がありました。その一節をご紹介しますと、
『・・・(略)火縄銃が、火縄のいらない雷管を撃針で打って発火させる「管打ち」に変わったのはいつごろであるのか。はっきりしたことはわからないが、私の会った九州方面の明治十年~二十年代に生まれた狩人は、大半が管打ち銃を射撃した経験者であった。
したがって、明治の末頃まで山間にはこの種の銃が用いられたらしい。・・・ 』
(資料⑬、P75~77)
というような記載がありました。
ここで千葉先生の著書にある「管打銃」とは、私が思うには、火縄銃(改造後)の可能性はあるものの、そう多くないと思っています。その理由としては、ある資料においては、『従来の火縄銃を管打ち銃に改造して用いたものも多かったようだ』ともあるのですが(資料⑩、P20)、別の資料は『・・明治14年の新聞に、種子島銃を作る職人たちが、仕事がなくなって困窮している。そこで村田銃の量産のため東京に呼んだ・・』との記載があります(資料⑭、P17)。
ここでいう「職人」が鉄砲鍛冶そのものかどうかは不明ですが、先の言及部分「火縄銃⇒管打ち銃」への改造がかなりあったなら、そこそこ仕事は継続しそうな気がします。でも「困窮するほど」との状況ですと、火縄銃⇒管打ち銃へのコンバージョンは、そう多くはなく、むしろ「払い下げの銃=軍用銃」が出回ったので買い求めた、または自らが「払い下げ銃」を安価に入手して改造してもらった、等々が実際ではなかったか?と推測している次第です。当然、それらが入手できない明治初期は、火縄銃での狩猟も継続した、と
推測し、その後も細々と続いていたとみています。
何度も登場していただき恐縮ですが、かの千葉先生の著書から、引用・抜粋させていただきます。
(資料⑬より、P77の表を、抜粋・転載)
< 長野県内 民有銃砲一覧表、明治17年12月、長野県統計 >
軍用銃(小銃?) | 猟銃(散弾銃?) | |||
洋式 | 和式 | 洋式 | 和式 | |
下伊那 | 393 | 158 | 18 | 3254 |
上伊那 | 58 | 99 | ― | 1699 |
諏 訪 | 359 | 64 | 41 | 1021 |
東筑摩 | 217 | 274 | 3 | 1744 |
小 県 | 451 | 339 | ― | 2454 |
更 級 | 360 | 268 | 2 | 700 |
埴 科 | 655 | 202 | 7 | 671 |
北佐久 | 233 | 204 | 7 | 1713 |
他8郡 | 616 | 568 | 9 | 4530 |
(カッコ内は筆者補足)
残念ながら千葉先生は、数字の振り分けの定義というか、「何が和式の軍用銃か?」「何が和式の猟銃か?」等の注釈をおつけしておりません。
私が思うには、ライフルの有無、で「軍用銃」かどうか、その他は「猟銃」という定義ではないか、と解釈しました。また、「和式猟銃」がこれほど多いのは、ひとつには火縄銃を含んでいるためなのと、またそれと同数以上に「改造猟銃」(前装、後装とも)が、
数として上がっているのではないかと思いますが、詳細のところは不明です。
また、もう一つ肝心な事は、「民間所有」の範囲がどこまでなのか、も大事な点です。
本統計表は明治17年ですが、すでにこの時「十三年式村田銃」が採用され、それ以外の小銃で、戊辰戦争に使用された銃砲は、順次払い下げが始まったとみられます(広い意味で、これらの改造銃も「村田式猟銃」という呼称をされているようです →出典4他)
この時点で、今まで使用した火縄銃が「猟銃」に置き変わりだした頃、ではないかと推測します。
また「十三年式~」も、明治30年頃になって、有名な「村田式猟銃」となって払い下げが始まり、日本の津々浦々へ供給されて行った、とみられています。
もし機会があれば、明治初期の頃のカタログを入手して、私の「推測」の部分を確認してご報告してみたいと思います。
〇参考文献ならびに資料、HP掲載等出典
①仮図入 銃砲火薬猟具類定価表
小樽佐々木銃砲店 発行、明治30年(1897)6月
②猟銃猟具定価表
川口銃砲店 発行、明治30年前後(推定)
③銃砲猟具雛形図解 営業案内(下)
日本銃砲店 発行、大正元年(1912)10月
④銃砲猟具雛形図解 営業案内(上)
日本銃砲店 発行、大正3年(1914)9月
⑤大正3年改正 営業案内
大倉組銃砲店 発行、大正3年(1914)
⑥銃猟界臨時増刊「射撃始」
金丸銃砲店 発行、明治39年(1906)1月
⑦銃猟新書
十文字信介 著、金港堂 刊、明治24年(1891)、
⇒ <近代日本狩猟図書館>第2巻(大日本猟友会 発行)、収載より
⑧銃猟新書 続篇
十文字信介 著、金港堂 刊、明治25年(1892)、
⇒ <近代日本狩猟図書館>第2巻(大日本猟友会 発行)、収載より
⑨最新 銃猟研究
鈴木俊行 著、三徳社 刊、大正11年(1922)
⑩日本狩猟史
水越隆平 編著、日本狩猟史刊行会 刊、昭和32年(1957)
⑪ガン・ハンドブック
小川菊松 編集、狩猟界社 発行、昭和37年(1962)4月
⑫(増補)図解古銃事典
所 荘吉 著、雄山閣出版 刊、昭和49年(1974)、第3版発行
⑬狩猟伝承 ~ものと人間の文化史14~
千葉徳爾 著、財団法人 法政大学出版局 刊、昭和50年(1975)初版発行
⑭反射炉 Ⅰ大砲をめぐる社会史 ~ものと人間の文化史77-Ⅰ~
金子 功 著、財団法人 法政大学出版局 刊、平成7年(1995)初版発行
⑮小銃 拳銃 機関銃入門
佐山二郎 著、光人社 刊、平成12年(2000)初版発行
⑯ミリタリー・スナイパー
MARTIN PEGLER 著、岡崎淳子 訳、大日本絵画 刊、平成18年(2006)
初版発行
⑰企画展示「歴史のなかの鉄炮伝来 ~種子島から戊辰戦争まで~」解説図録
国立歴史民俗博物館 編集、(財)歴史民俗博物館振興会ほか 共同発行、
平成19年(2007)、第2版
⑱鉄砲伝来の日本史 ~火縄銃からライフル銃まで~
宇田川武久 編、吉川弘文館 刊、平成19年(2007)初版発行
⑲鉄砲を手放さなかった百姓たち
武井弘一 著、朝日新聞出版 刊、平成22年(2010)
⑳MAUSER RIFLES
LUDWIG OLSON 著、NRA BOOK SERVICE 発行、1985年(昭和60)
㉑THE SNIDER―ENFIELD RIFLE
CHARLES J. PURDON 著、MUSEUM RESTORATION SERVICE 発行、
1990年(平成2)
㉒FLAYDERMAN’S GUIDE 9th EDITION
GUN DIGESTBOOKS 発行、2007年(平成19)
㉓THE PATTERN 1853 ENFIELD RIFLE
PETER SMITHURST 著、OSPREY PUBLISHING 発行、
2011年(平成23)
㉔PICTORIAL HISTORY OF THE RIFLE
G.W.P. SWENSON 著、IAN ALLAN 発行、1971(昭和46)、第1版
1Retire「幹さん」のH/P より~銃砲・火薬の歴史~
http://www.cc.rim.or.jp/~matu~milk/gyoukairekisi(2).hylm
2野生生物に関する制度等の概略史(1870-2000)
http://www.biodic.go.jp/cbd/5/tu1-2.PDF
3きのこたけ戦争資料館 ~別館HP~より
http://www35.atpages.jp/tokorozawa/faq11mr02d.html#20885
4モーターワークスカンパニー おすすめリンク~社長の道楽~より(MWCホールディングHP内 )
http://www.piyoyonet.com/douraku/shoot/mukasibabanasi.html
5日本の武器兵器 ~須川薫雄氏主宰HP~より
http://www..日本の武器兵器.jp/archive
6日本銃砲史学会 HPより
http://www.fhaj.jp/
7大日本猟友会 HPより
http://www.moriniikou.jp/
8無可動実銃販売元 株式会社シカゴレジメンタルス HPより
http://www.regimentals.jp/
9徳川家康の東金鶴御成および明治時代の雄蛇ヶ池猟区考察
~吉田義明氏主宰HP、「レイクチャンプ」より ~
http://wakasagi.jpn.org/js-news06-189210.htm
10明治初期の熊本南部における野生哺乳類の生息、狩猟および被害の分布
~「森林防疫 Vol.59、No.2(No.677)、2010 3月号」~ より
http://cse.ffpri.affrc.go.jp/myasuda/pdf/Yasuda2010b.pdf
11北陸地方における鳥猟文化の変遷に関する研究
~2007年度 日本海学研究グループ支援事業 研究成果発表会~ より
http://www.nihonkaigaku.org/library/group/i070401-t5.pdf
12開拓使期における狩猟行政 ~北海道鹿猟規則制定過程と狩猟制限の論理~
北海道大学付属図書館 データベースより
http://src-hokudai-ac.jp/inoue/north_eurasian/momose.pdf
13株式会社 三田商店 HPより ~会社案内110年のあゆみ~
http://www.mita-gnet.co.jp/enkaku/enkaku_meiji.html
14ドイツ・マウザー社 HPより
http://www.mauser.com/Home.home.0.html?&L=1
15日本と世界のお金の歴史 雑学コラム
http://manabow.com/zatsugaku/column06/
http://manabow.com/zatsugaku/column06/2.html
16教えて!goo 検索サイト「明治5年の1円は?」
http://oshiete.goo.ne.jp/qa/7138577.html
17YAHOO!Japan 知恵袋 検索サイト「大正時代の1円は?」
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1160038581
18東京都小平市公式HP ~村の鉄砲のゆくえ~
http://www.city.kodaira.tokyo.jp/kurashi/031/031806.html
19YAHOO!Japan 知恵袋 検索サイト「火縄銃で狩猟に使ったのでしょうか?散弾は
使えたのでしょうか?」
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1462618589
〇 資料ならびに、取材・執筆にご協力いただいた、関係各位
・有限会社 浜田銃砲店
(東京都千代田区外神田5丁目2-2)
・一般社団法人 大日本猟友会
(東京都千代田区九段北3丁目2-11)
あらためて御礼申し上げます。