コンピューターのシステム開発を生業としている私は、日頃の運動不足の解消を狙って狩猟を始めました。熊本県下で猪の単独猟を始めて3年目になり、シーズンになると日曜日は山に入っています。年齢とともに体力が落ちて行きますから、安全第一で、午前中だけの狩猟としています。
私の単独猟について簡単に説明しますと、猟犬1匹と基本的には狩猟者1人で行います。朝一番、車で行けるところまで行って、日の出と同時に山を登り始めます。単独猟のため、狩場の反対側の斜面を登り、頂上、又は尾根を越えて、猟場の斜面の上から下に向かって猟を行います。猟犬には鈴とドッグナビを付けています。猟犬は私の前方50m以内を扇形に探索します。猟犬の足がのびて、私より離れすぎると鈴の音が聞こえなくなります。そのような時は私が立ち止まり、立木に寄りかかり待っていると、猟犬は離れ過ぎたことに気づき1~2分で戻り、私の横に付きます。それからまた歩き出します。獲物の匂いを捉えると匂いを辿って一気に200~300m追い掛けます。猪が居ると一気に吠え止めをします。私の猟犬は体重15kgの屋久島犬と土佐犬のMIXの中型犬です。猪は5~6倍の大きさ60~100kgありますので、猟犬が1匹だと逃げません、逆に寝屋から追い払うために10~20m追い掛けたら寝屋に戻り、また居座り続けます。この寝屋での猪との駆引が単独猟の大きな醍醐味です。
3月13日、今シーズン最後の日曜日です。友人と2人で日の出とともに山の尾根沿いに登り始めました。北斜面は60度の急斜面の杉林です。南斜面は50度の雑木林が続きます。30分位登ると、猟犬の鈴が聞こえなくなりました、ドッグナビで確認すると、185m上方の頂上の南斜面を20m降りた付近にいます。吠えるのを待ちますが、5分経っても吠えません。その後、戻ってきました。おかしな動きだな、と思い頂上に向かって100m位登ると、また猟犬が匂いを追いかけ80m上方に同じポイントに向かい止まりました。しかし今度も吠えずに戻ってきました。
これに似たことが以前にも何回かありました。犬は匂いを取り吠えましたが、250m上方のやぶの上とか、私たちが登っても15分ぐらいかかり逃げるだろうと判断してか、追わなかったことがありました。また、猪が大き過ぎると、狩猟者がすぐに撃ち仕留めないと犬が猪にやられる可能性があります。よって、大きい猪の時は、狩猟者が近くに居ないと用心して吠えない、追わないこともあります。
猪が居ることは間違いないと考え、弾の装填の確認とレーザービームのスイッチを入れて北側の斜面から猪の居るポイントの真上になる頂上に登りました。猪猟では常に猟犬が猪に絡んでいます。よって、銃の照星、照門を使って射撃すると銃身により下半分が見えず、猟犬を撃つ可能性が有り、犬の安全を考えて、昼間でも100m先のポイントが見えるレーザービームを銃身に取り付けて、50mまでは立射で撃っています。私が頂上に上がると、南斜面10m下に猟犬が下斜面に向かってにらんでいます。首だけ後ろに振り向き、私が頂上に登り、射撃体勢が出来ているのを確認すると、猛然と吠え出しました。直前までの、静けさに対して山中に聞こえんばかりに吠えています。その声に促されて、南斜面を見ると、猟犬の下方20m位置に周りとは明らかに違う黒色の物体が見えます。とっさに猪と分かりました。銃を構えて、ビームのポイントを獲物に当て、猟犬の位置を確認して、引き金を引きました。撃った瞬間、猪の肩がガックと落ち、その場に倒れてくれました。ラッキーでした。もし半矢にして南斜面を下られたら、車両の道路まで約2km引きずらなければなりませんでした。獲物は約90kgのメスです。とても2kmの距離では搬出できない重さでした。幸い頂上まであと30mです。写真は3連滑車を使い頂上まで引き上げているときのものです。北斜面は60~65度の急斜面で30年生の杉林。300m下の車道まで、引きずり下すのは楽でした。斜面の途中からは猪が勝手に滑り出し、下まで手間いらずでしたが、猟犬の「トラ」は慌てました。斜面を猪が逃げ出したと思い、吠えながら一生懸命、追い掛けていました。
いま考えますと、今回の猪猟は私と友人が獲ったのではなく、どうも、猟犬の「トラ」に指揮されて、獲らされた感じがしてきました。新米のハンターをこうも猟犬がコーデイネートするかなぁ、と驚かされたシーズンでした。ベテランの皆さんから見たら、新人ハンターの思い込みの猪猟記、間違っている点も多々あると思います。正しい知識、間違っている点についてご指導ご指摘をいただければ幸いです。
本島 明 記