狩猟をするきっかけ

競技会 ニューヨーク

猟犬の競技会  ニューヨーク州にて

 私は宮城県志津川町(現・南三陸町)生まれの田舎育ちです。小学4、5年生(1948年)の頃、進駐軍がキジ猟に志津川に来ました。兵隊さんに「ヘイボーイ、キジは何処に居るか」と尋ねられて、猟場を教えました。獲物に向かって五発を連射し、空薬莢を捨てて行くその姿はとても格好良く見えました。(当時日本では実包は高価なため、空薬莢は捨てずに再生して使っていました)拾った空薬莢を使っては、今では言えない猟ごっこをして遊んだものです。獲物がとれればチップがもらえ、当時のご飯は麦飯でしたのから、ゴマ入りの白米のおにぎりを貰うのが楽しみでよく案内したものです。

 私は成人になったら絶対に狩猟をやると心に誓い、真面目に仕事をしました。そして、東京都青梅市で二十歳を迎えた昭和35年、念願であった銃砲所持ができ、すぐに狩猟を始めました。当時、青梅市には著名な狩猟家が多く居られ、鳥猟犬から大物犬、ビーグル犬に至るまで様々な猟犬が飼われており、狩猟を取り巻く環境が整っていました。特に当地にはアメリカから優秀なポインター、セッター犬が多く輸入されており、これが私の狩猟人生の方向を決定づけることとなります。私はキジ猟が好きだったのでポインターを訓練し、狩猟だけでは物足りなくトライアル(競技会)にも参加しました。私の愛犬も含めアメリカから輸入された猟犬の多くは足がかなり伸びる(捜索範囲が広い)傾向にあり、大いに悩んでいたところ、恩人から「佐々木君、このような犬は猟欲が強いから、アメリカへ行って訓練方法を習得してこないと駄目だ」と助言を受けました。そこで、恩師に頼みこみ、米国コネチカット州の鳥猟犬プロ訓練士、ビル・コリン氏の元へ猟犬の訓練方法習得の留学をすることとなりました。昭和43年7月5日、私27歳の時、妻と幼い二人の娘を残し、語学が全く出来ぬ身ながらも羽田空港を飛び立ちました。

カナダのオープンフィールド

訓練地 カナダのオープンフィールド

 米国に到着後、3日間昼夜続けてドライブ(2,200マイル)し、キャンプ地であるカナダのサスカチュワン、ナコベスに到着。訓練犬38頭を、馬5頭で訓練します。7月後半から2ヶ月間、土曜日午後と日曜日以外、毎日馬に乗っての訓練です。カナダでの訓練地は、広大なフィールドの所々に少しばかりのブッシュと林があり、そこには直射日光を避けて、プレィリーチキン(日本のメスキジより少し小さい位の鳥)が沢山茂みに隠れて居ます。そこへ訓練犬を誘導して行き、鳥にあてての、ポイント、バッキングの訓練と、ステデネスという鳥を追わせない訓練を行いました。

 9月後半からコネチカット州に戻り、ニューイングランド地方のトライアル競技会に多々参加しました。この地方は12月になると雪が多く積もるので、真冬はオクラホマ州のプロ・トレーナー、デルマー・スミス氏の元で訓練方法の学習と、広大なオープン・フィールドで開催される競技会に参加しました。4月には再びコンリン氏の元へ戻り、ニューイングランド地方の競技会に参加した後、帰国しました。

カナダでの訓練

カナダでのトレーニング

 アメリカでの鳥猟犬は、ポインター、セター、ブリタニー・スパニール、ドイツ・ポインター等のポインティング・ドッグが主流です。獲物を探す捜索範囲で分ければ狭い犬と広い犬がいます。捜索範囲が狭い犬はガン・ドッグといわれ、また、広い犬はオールエージ・ドッグです。オールエージ・ドッグは広大なレンジで刈り込み、捜索範囲が1マイルに及んでも良いとされる犬です。競技会ではハンドラー(操縦者)の他に2人のスカウト(助手)が付くことも許されています。

  オールエージは国土が広大なアメリカならではのカテゴリーで、このままでは狭い我が国では使えません。目指したのはシューティング・ドックの調教訓練方法です。シューティングドッグとはガン・ドッグより捜索範囲は広く、オールエージ・ドッグより狭くなります。その距離は遠くても300m位で、競技会では犬がポイントしても鳥を飛ばすのはハンドラーで、犬はポイント姿勢を少しでも崩せば減点、一歩でも動けば失格となり、その審査基準は厳しいものがあります。

競技会 ニューイングランド

雪のなかの競技会  ニューイングランドにて

競技会 オクラホマ州

競技会  オクラホマ州にて

 この訓練方法を取り入れた競技会は現在も日本で開催されており、私も競技会に参加し数多くの賞を受賞してきました。全日本狩猟倶楽部が行っている競技会は、もう少しレンジを狭く、実猟的な捜索に重点をおいたものとなっています。

ところで、上述しましたとおり、米国では鳥を飛ばすのはハンドラーで、犬に飛び込みを要求していません。犬に飛び込みの仕事を求める我が国だけです。何事にも万能を求める日本人の性が鳥猟犬の       世界にも現れているのでしょう。

 

 

オクラホマ州での競技会

中央馬上が筆者  オクラホマ州にて

 捜索範囲の広いアメリカの優秀な猟犬を我が国で使える様にする調教訓練を目的として渡米したので、私が会得したその訓練方法(シューティング・ドッグの育成)について少しお話しをします。

 まずは猟欲をつける事に始まります。訓練では犬を山野に連れて行き、野鳥や置き鳥訓練等で犬に猟欲をつける様にします。ゲームにポイントを完全にできる様に教えることが肝心です。

 猟欲が完全についたら次はマテ(待て)のヤード訓練を教えます。足が伸びる犬は遥か彼方の猟野を走り回る犬なので、このヤード訓練で主人の命令に服従する習慣を身に付けさせます。ヤード訓練とは犬に短い引き綱を繋ぎ、左右どちらでも良いですが、自分のカカトに後付けさせ、5~6歩、歩いたら引き綱を少し強く引き、「マテ」と言って止まることを教えます。これを何回も繰り返し訓練します。ロープを引かなくとも声だけで止まる様になったら、今度は犬に「マテ」と言って止めておき、自分が犬から離れる様にします。犬が一緒に付いてきたら元の位置まで戻し、「マテ」と言って離れます。少しでも待っていたら褒めて、マテで15~30m離れられる様に根気よく訓練します。ヤード訓練は、1回の訓練時間は15分位で、1日に時間を置いて2回程度にします。長い時間行うと犬が飽きてしまい効果がありません。ヤード訓練が出来る様になったら、バードワークの訓練に入ります。

競技会 ニューイングランド

競技会  ニューヨーク州にて

 バードワークの訓練(置き鳥訓練)は犬に5~7mチェックロープ引き綱をつけ、風下から置き鳥に近づきポイントさせます。リモコン操作で放鳥機からハトを飛ばすと、飛んだハトを犬は必ず後追いします。後追いしたらマテで、ロープを強く引き、「マテ」で止めます、ハトが見えなくなるまでマテで止めておき、待っていたら褒めてやります。出した鳥を追わずにいることは猟犬にとって相当の自制が必要です。ヤード訓練と同じ様に、一日の訓練には5~6回程度が良いと思います。後追いをしなければ次の捜索に移ります。この訓練が出来上がる頃には主人の言う事を良く聞くようになっています。

 猟犬の訓練は真剣勝負で、山菜採りをしながらついでに訓練するという、しながら、ついでの訓練では良い猟犬に仕上げることは出来ないのです。

国内での訓練セミナー

帰国後、猟犬訓練セミナーを開催

 次回は狩猟のことについてお話しいたします。

                             佐々木 善松  記

 

 

 

 

 

 

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